近視は なぜ 進むのか

近視(近眼)について

正常な眼が、どうして近視になるのか。そして近視になったあとも、なぜ度が進むのか。この疑問には、200年以上前から数多くの研究がなされていますが、いまだに最終的な正解が出ていません。近視の発生予防、近視の進行防止は、国家的な課題でもあります。それでも、少しずつ新しい知識が加わっています。
人種の差というのは、どうしようもないことです。日本人に近視が多いことは間違いありません。通常は、小学校高学年から高校生までの学童で発症します。また親が近視であると、近視の程度が強いというエビデンスがあります。成人になると近視はもう進行しない、ということではなく、20歳代、30歳代で眼鏡を作り替えることがあります。
また、「漢字」が良くない、という説もあります。文字を書くときに、アルファベットを用いる文化では、視線が速く移動するのに対して、複雑な漢字を書くときには、視線が固定されて移動しなくなります。この「凝視」が近視を悪化させる、という考えがあります。楽な気持ちで見る、ということが大切なようです。携帯ゲーム機で遊ぶときにも、集中しないでプレイすると、近視の予防には、良いでしょうが、すぐ負けてしまうでしょう。しかし、この携帯ゲーム機やスマートフォンを現代の子供たちが、何時間も見続けている実態が、近年の急激な近視の増加の原因となっている、と考えることが妥当のようです。令和2年度に学校で実施された検診の結果が、文部科学省から公表されました(学校保健統計調査)。10年前の数値と比べると、僅か10年で、こんなにも進行したのか、と驚かされます。裸眼視力が1.0に満たない生徒の割合が、小学生では、29.9%から37.5%。中学生では、52.7%から58.2%。高校生では、55.6%から63.1%に増加しています。

子供の眼球は 成長過程 近視に進みやすい


小児の眼球は成人の眼球と同じではなく、身体の成長とともに成人の眼球へと変化していきます。近視の眼球は、前後方向に伸びた球形を示します。これを眼軸延長と言います。程度の強い近視(強度近視と呼びます)では、この眼球の変形が著しく、網膜の性能が悪くなり、また眼球のまわりの骨容器(眼窩)とぶつかって、両目で見た物が二重になる(複視)現象が現れることがあります。小児の眼球が成長していくときに、近視の眼球になりにくくするにはどうしたらよいか、が近視予防の要点です。
成人と異なり、小児の眼球は大きな調節幅を持っています。簡単に言いますと、遠くの物体からごく近くの物体まで、瞬時にピントを合わせる力を持っています。この力は老化とともに失われ、老人では遠距離用、パソコン画面用、近距離用、の眼鏡をかけ替えなければ細かいところまで読み取れません。ピントを合わせる、という動作は、網膜に投影された像が明瞭なのか、ぼやけているのか、を瞬時に判断して微調整することです。視力検査をしていると分かりますが、視力の良い児童は指標の向きをすぐに正しく答えます。裸眼視力が低下してくると、答えるまでに時間がかかります。それでもしばらく5m先の視力表を見ていると、反応が速くなってきます。眼は常に遠く近く、上下左右の物体を見て調節を繰り返していますので、ここに疲労や、像のボケに対する反応の低下があると、近視が進行すると考えられています。近くを見るという作業は、眼球が調節をたくさん行うということですから、遠くを見て眼を休ませる時間を多くとると、近視が進行しにくい、というエビデンスは理にかなっています。アルファベットで勉強する人種と、漢字で勉強する人種とでは、漢字の方が一か所に視線を留める凝視時間が長く、それだけ近見調節して緊張する時間が長くなり、不利である。とも言われています。
遠くがはっきり見える眼鏡をかけると、本を読んだり文字を書くときに、近くを見る努力が必要となり、近視が進行するから少し弱い度数の眼鏡を作ったほうがよい、と言われた時期がありました。現在は、老眼鏡と同じように累進レンズを加えると、近視進行防止に効果があるとエビデンスが出されています。物や文字を細かいところまで判別するのは、網膜の中心部である黄斑部中心窩ですが、中心ではない周辺部網膜に映る像のボケが近視の発生・進行に重要な役割を果たすという学説が最近では有力となっています。近視の眼球は、球形ではなく、眼軸が延長した形に変形していますので、黄斑部中心窩にピントを合わせた眼鏡では、周辺部網膜にピントが合いません。もう少し研究が進むと、学童近視の概念および治療は大きく変わると考えられます。
また、角膜の中央部をへこませることにより、眼球の屈折度が減少して近視が軽くなる、という治療がオルソケラトロジーです。これは、特殊なコンタクトレンズを夜間装用して眠ると、翌日近視が軽くなるという治療法で、学童の近視進行を抑制するエビデンスが出されています。
日本眼科医会が発行している「日本の眼科」2013年8号では、親が近視、都市の住人、近業作業が長いことが近視の進行と疫学的に相関する、と記載しています。逆にスポーツ等の屋外活動が多いと近視が進みにくい、と述べています。軸外収差抑制眼鏡は、全方向に累進加入度を持つ眼鏡で、近視の進行を抑制する効果が確認され、現在、日本眼科医会の補助を得て、多施設研究が始まっている、と書いています。

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